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計算物理学

計算物理学(Computational physics)は、解析的に解けない物理現象の問題をコンピュータを用いて数値的に解くことを目的とする物理学の分野です。コンピュータの進歩によって、いままでは理論計算も実験もできなかった現象が、コンピュータで予測(シミュレーション)することができるようになってきました。そのため計算物理学は、理論物理学、実験物理学とならぶ重要な第三の分野として、急速に研究がすすめられています。ここでは、そのような研究の手法をちょっと覗いてみることにしましょう。

ミクロな世界の方程式

原子、分子、原子核といったミクロな世界では、粒子(このような粒子を量子と呼んでいます)の運動は、シュレディンガー方程式とよばれる波動方程式で記述することができます。これによると、この粒子が時刻latex math imageに座標latex math imageに存在する確率は、波動関数latex math image(latex math image,latex math image)の2乗latex math imagelatex math image(latex math image,latex math image)latex math imageで表され、その波動関数はシュレディンガー方程式

latex math image

によって求められます。latex math imageは粒子に作用するポテンシャルです。この方程式は、時刻について1階、座標について2階の偏微分方程式ですから、コンピュータによって数値的に解くことができます。

1次元ポテンシャルによる波束の散乱

そこで量子的な粒子を一次元の箱型ポテンシャルに向けて入射したときの粒子の様子をみてみましょう。ここでは粒子をガウス関数の形をした波束(はそく)として扱います。このような問題は「1次元ポテンシャルによる波束の散乱」と呼ばれています。シュレディンガー方程式を数値的に解くには、座標latex math imageを間隔latex math imagelatex math image点に分割して、差分の式として処理します。それにしたがって、コンピュータ上でプログラミングし、時刻latex math imageの初期条件にlatex math image(latex math image,latex math image)が与えられると数値的に求めること(シミュレーション)ができます。いまlatex math image(latex math image,latex math image)として、右向きに進むガウス関数の形の波束

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として求めてみましょう。

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左の図は、2つの井戸型ポテンシャルがある場合に計算して求めたlatex math imagelatex math image(latex math image,latex math image)latex math imageを一定時間が経過した毎にグラフに描いたものです。図のように、波束の一部はポテンシャルを通過できますが、残りはポテンシャルによってはね返される様子が分かります。すなわち、ミクロな世界の粒子は、ある時には通過し、またある時には跳ね返されるという、私たちの日常の生活から想像もできない不思議な振る舞いをしているのです。この散乱の様子は、ポテンシャルの強さや初期条件の波束によって変わります。コンピュータでシミュレーションすることによってさまざまなケースについて調べることが可能になるのです。