KisoRikoStory

「ランダム」のいたずら

基礎理工学科 影島賢巳

 図1はある数列のグラフです。あまりきれいな波形ではありませんが、それでも極大の場所に矢印を打ってみると、およそ3の周期で振動しているように見えます。そこでこれを見て、何か3の周期で変動するメカニズムがあるはずだ、と早合点しそうになりますが、実は、これは1から10までの乱数を発生させて並べただけなのです。

 
図1
 

 ランダムなはずのものが疑似的に周期性を示す、という一見不思議なこの現象は、物理学者寺田寅彦によって1916年に報告されています[1]。寺田寅彦は、地震のようなランダムに起こる突発的な自然現象に大きな関心を寄せ、時代の先取りといえるユニークな思考を縦横に展開した人で、この論文中でも、地震の周期のほか、大学の学部別の在学者数の変動までも例にとって、3の疑似周期の存在を指摘しています。ノイズだらけの実験データを見て周期性があるように勘違いした経験は私にもあり、これは決して単なる枝葉末節の話ではなく、工学的にも非常に重要です。

 

 この現象は、後に、これまたユニークな物理学者である伏見康治によってその著書の中で解説され、極大の生じる間隔の期待値が3であることが計算で示されています[2]。簡単に説明するならば、もしある数字が5より大きければ、次にはより小さい数字が来る確率が高く、逆に5より小さい数字の次にはより大きい数字が来る確率が高い、という具合で上下の変動が起きる、その周期が大体3であるということです。

 

 このように、自然は無作為の中に法則性を偽装することがあり、また逆に、理由があって生じている現象を、人間が単なる偶然と勘違いすることもあります。そこで、自然に騙されないよう、現象のうわべだけを見るのではなく、背後にあるメカニズムを考えられるよう、現象を捉える「もう1つの目」を持つということ、それが科学ではないかと私は考えます。

 

 寺田寅彦は、夏目漱石と親しく交流しその作品中の人物のモデルにもなっており、その文才と科学的思考から生み出された多くのエッセイは現在でも広く読まれています。

 

[1] T. Terada, Apparent Periodicities of Accidental Phenomena, Proc. Tokyo Math. Phys. Soc. VIII (1916) pp. 566-570.
[2] 伏見康治「確率論及統計論」(1942、河出書房).