基礎理工学科大阪電気通信大学・工学部 |
研究テーマは「線形偏微分方程式系の初期値問題」です.
たいていは,時間変数と空間変数
を分けて表します.空間次元
の場合の方程式系(方程式の個数と未知変数の個数をともに
としたときで,さらに正規系のとき)は次の形で表されます.
がいっぱいあり目が回りそうですが,新たな未知関数を導入することにより次のように書き換えることが出来ます.
ここで,は未知のベクトル値関数であり,
は与えられたベクトル値関数(力学的な表現では外力にあたる)です.時刻
の状態
(初期値という)がわかっているとき,この方程式系(物理的には法則にあたる)にしたがって変化する解を求めよう,という訳です.この方程式系が本当にある種の現象を記述しているなら,しかるべき結果(解)が存在して当然です数学的には簡単ではありません.
話は大きく飛びますが,ほとんどの人は中学で連立一次方程式を習ったはずです.たとえば,
は
という唯1つの解を持ちますが,5を6に変えた
は解を持ちません.さらに,8を9に変えた
は無数の解を持ちます.
このことは,連立一次方程式を考えるとき,行列
において
,
, ...,
に入る数値によって状況が微妙に変化することがわかります.詳しいことは,大学1年次の線形代数の最初の段階で習うことになります.
飛躍はありますが,微分方程式(2)についても同様のことが起こります.行列 の与えられ方によっては,解が存在したりしなかったりします.最も有名な命題は「コーシー・コワレフスカヤの定理」です.これは「解析関数の枠内では,空間方向の微分階数が時間方向の微分階数を上回らなければ一可解性が成り立つ」ということで,(1)の方程式について
の場合,すなわち方程式が1つの場合にロシアのソーニャ・コワレフスカヤが1875年に証明しました.本学名誉教授ですでに故人となられた溝畑茂先生は,1981年にこの命題の必要性を証明しました.一般の場合(
)は様相が複雑になります.たとえば,(2)において
であることは,十分ですが,必要ではありません.この問題については,龍谷大学の松本和一郎教授との共同研究によって一定の結論を出すことができました(詳しい論文は未だ出ていない).
解析関数より広いクラス(例えば関数のクラス)でこの問題を考えるとき,様々な研究がありますが,対称双曲型方程式系などきれいな場合を除いて未だ発展途上といえます.最近はこのような,実用性(?)にほど遠いクラシックな問題に取り組む研究者が減ってきたことに残念な思いを抱いております.